山地(やまち)酪農。
読んで字のまま、山で牛を飼う酪農のことです。
日本は面積が狭いため、なかなか牛の放牧場所を確保することが難しいと言われています。
しかし、日本の国土の約7割を占める山林の大部分が、利用されずに放置されている現状があります。
山には、牛の食糧になる植物がたくさん生えています。
山地酪農は、国内に自生する野シバを主とした在来野草を有効に活用しながら、山を管理する手段として、戦後間もなく、植物生態学者である猶原恭爾(なおはら きょうじ)によって提唱されました。
林業において手間のかかる下草刈りの作業の代わりに、牛を放すことによって草を食べさせ、労力の軽減をはかるとともに、飼料代を減らすことにもつながります。
野シバを食べた牛が、その糞を落とした所に野シバが生え、それを何年も繰り返していくことで、山崩れを防ぐ丈夫な野シバの絨毯で山が覆われます。
山に放牧された牛は、日の光を浴びて自由に歩き回り、自由に草を食べ、美味しい牛乳を出してくれます。
牛乳の味は、牛の食べたものによって、季節によって、また、日によっても変化するのが特徴です。
牛乳は、そもそも母牛が仔牛を育てるために出すもの。
私たち人間は、そのおすそわけをいただいているに過ぎません。
山地酪農とは、多くの乳量を求めるのではなく、牛の力を借りて山作りを行いながら、乳生産による収入を得ることで、経済的にも持続していく手法です。
山地酪農が全国に広がれば、乳の生産と山林の管理を両立できる産業として、酪農あるいは山作りの新たな選択肢になり得ると考えています。