牧場について

神奈川県西部に位置する丹沢山地のひとつ、大野山の山頂付近に、この牧場はあります。

一般に、牛を放牧する場合、平坦な牧草地が必要であり、国土面積の狭い日本では、その確保が難しいとされていますが、日本の面積の約3分の2を占める山林を放牧地として活用する「山地酪農」を実践する牧場です。

山に牛を放牧していると、その牧歌的な風景から「牛はストレスもなく、幸せそう」と言われることが多くあります。
もちろん、晴れて穏やかな日は、そうかもしれません。
しかしながら牛たちは、雨や風の日、大雨や台風の日でも、24時間365日山で暮らしているため、全くストレスがないとは言い切れないと感じています。
それでも、牛たちには「崩れにくい山作り」のため、常に山で過ごしてもらっているのです。

牛たちは、山に生える草を主食にしています。
中でもノシバ(別名二ホンシバ)は生命力が強く、牛に食べられてもすぐに次の葉が伸びてくるため飼料として繰り返し利用できるだけでなく、地面の下に深さ40cm以上の細かい根を張るため、土をしっかり抱え、土砂崩れを防ぐ働きがあります。
ノシバは背丈が低いため、背の高い他の草の陰になると日光を浴びられずに上手く成長することができません。
牛たちには、ノシバの生育の妨げになる草を食べてもらいながら、食べたノシバの種を糞と一緒に落として新しい場所に生えるようにしたり、糞尿は肥料になったり、山にノシバを広げるお手伝いをしてもらっているのです。

近年、大雨や台風による土砂崩れが相次ぐ中で、コンクリート等の人工物で固められた山も多く見られます。
ノシバが山に広がりきるまでには何年もの時間がかかりますが、崩れにくい山を牛たちの力を借りて作るために、薫る野牧場の牛たちは山で暮らしてもらっています。

山の草を主食とし、栄養計算された配合飼料は与えないため、山地酪農での生乳生産量は一般の3分の1程度です。
酪農業界において大規模化が進む中、少量生産の山地酪農はなかなか普及せず、日本で実践している牧場は数軒にとどまっているのが現状です。

新規就農にかかる多額の設備投資、事例の少ない山地酪農に対する地元の受入れ体制など、さまざまな課題もあります。

大きな問題として、一般的な酪農で生産された牛乳より、山地酪農で生産された牛乳は乳脂肪分が低く、現行の制度では生乳の買取価格が安くなってしまうため、安定した収入に繋がらないことが挙げられます。

経営を持続させるために、自前での加工、販売により価値を付けることが求められ、それにかかる設備が必要になり、販売網の確保も自分で行うとすると、山地酪農を実践したいと考える人にとって大きな壁となり、行動に移す前に諦めてしまうことも少なくありません。

日本で山地酪農を30年以上実践する「なかほら牧場」(岩手県岩泉町)で4年半働いた私が、新規就農でそれを実現することで、「自分もやってみたい」と考えて行動に移す方がいらっしゃれば幸いです。

山地酪農家が増え、

日本の山の活用方法が多様になり、

牛の力を借りて山で生計を立てる生き方が広まれば、

日本の国土の3分の2を占める山林をより有効に活用していけるのではと考えています。

山地酪農の拡大によって、日本の酪農がより魅力的な産業になること、山林で人が暮らしていけること、それが私たちの子どもや孫、その先の世代もずっと続けていけること、

それが私の夢であり、この牧場が成り立つ先に目指す未来です。

人も牛も、無理、無駄なく、限りなく自然のままに。